佐七改稿録2

 佐七モノから金田一モノへの改稿を纏める。

人形佐七→金田一耕助

「銀の簪」S21年→「扉の中の女」S32年(→同名の長編S36年)

 原型は佐七物の戦後第一作目である。名前を変えたとか、時代設定を動かしたと言うレベルの改作ではない。凶器の発見者が事件と無関係な第三者(原型では佐七の女房のお粂、改作では依頼主)であったことと、犯人特定に至る殺人方法が共通している位で、言われなければ判らなかっただろう。

 最初に挙げられた容疑者が真犯人でなかった点も踏襲しているのだが、これは探偵物の常道だろう。警察に挙げられるなら名探偵は要らないのだから。

 「浄玻璃の鏡」S23→「渦の中の女」S32年(→「黒い蝶」S34年中絶→「白と黒」S36年)

 佐七と金田一のキャラの違いはあるが、導入からかなり原型を残している。作者が違ったら盗作と言われても仕方ないレベルである。そこで設定を大幅に附加した長編へと改稿されている。

(「神の矢」中絶→)「当り矢」S29→「毒の矢」S31年(→同名の長編S31年)

 始めに由利先生ものとして書かれながら連載が途絶し、のちに佐七物として改作された物。但し、「神の矢」にあったらしい怪文書の要素は「当たり矢」には含まれておらず、金田一物への改稿に際して復活している。佐七モノには既に怪文書系として 「浄玻璃の鏡」が有ったので抜いたのかも知れない。

 結果として由利先生モノから金田一モノへの交代劇を一種象徴する作品と言える。

 未検証作品群 (09/03/16追加)

 出版芸術社による補完作品集を入手し追加検証しました。

「三本の矢」S13→「死神の矢」S31

 三人の婿候補による弓矢勝負という点は同じ。顛末が大きく異なるのだが、時代を反映して佐七版では三人とも的には当てている。対して金田一版では的に当てたのは一人だけ。

「やまぶき薬師」S27→「魔女の暦」S31(後に三倍に改稿)

 発端の舞台での殺人はそのまま。佐七版ではライバル茂平次にも予告状が送られて引っかき回される。ただし最初に容疑者とされた青年が逃げてしまう部分は無い。茂平次と違って現代警察(位置的には等々力警部になるのだけれど)はそこまで間抜けじゃあないらしい。

佐七→金田一 再び (14/07/30増補・追加)

 佐七モノを再読していて、そういえば似たような作品がまだあったなと発掘してみました。金田一モノもメジャーでないモノは繰り返し読んでいないので思い出すのに時間が掛かりました。

「猫と女行者」S29→「迷路の花嫁」S30 (「猫館」S38)

 似ていると思って読み返してみたが、「猫館」については道具立てを再利用しただけで改稿作品とは言えないかも知れない。

 「迷路の花嫁」は殺人のトリックがほぼ共通だがその動機に大きな違いがある。しかしこれだけの長編なのに連続殺人ではないと言う非常に珍しい作品である。

「遠眼鏡の殿様」S30→「猟奇の始末書」S37

 道具立てが類似。主人公の行動理由が原因は違えども一種の虚無感であること。そして主人公の奥さんの名前も類似している(加奈江と可奈)。しかし読後感は全く異なる。時代背景の違いでしょうか。

「福笑いの夜」S31→「トランプ台上の首」(短編版)S32→「トランプ台上の首」(改稿版)S34

 首無し成らぬ首だけ死体というプロットが共通。なので厳密には改稿とはいえませんが。

改訂と改稿 (14/08/08)

 単純に主人公を差し替える変更を改訂、内容を膨らませる書き換えを改稿と定義します。

「猫と女行者」S29→(「迷路の花嫁」@金田一S30)→「女祈祷師」S31

 春陽文庫未収の「女祈祷師」は初期状況が類似しているが犯人が異なる。似すぎているために年表に両方を入れるのがためらわれるほどだ。佐七に調査命令が来た前者が前期で、来なかった後者は後期と推定。

「富籤五人男」@紫甚左捕物帳S16→「鶴の千番」S17→「悪魔の富籤」S30

 時系列を考えると、元々紫甚左で書いたものを翌年に佐七ものとして改稿。それを忘却して戦後にもう一度ほぼそのままの形で書きなおしたものと思われます。完成度としては「鶴の千番」の方が明らかに上なので「悪魔の富籤」の方は欠番でも良いのですが、茂平次が(おそらく元作品にいた敵役からの差し替えで)登場するので生かしたいと思います。

「お高祖頭巾」@朝顔金太S19→「お高祖頭巾の女」S24 → 「万引き娘」@人形佐七S27

 前者とほぼ同じ経緯と思われるのが「お高祖頭巾の女」と「万引き娘」の関係。こちらは一度金田一ものに改稿したので、忘れていたと言うことでしょう。

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参考リンク 横溝正史捕物帳リスト

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