悪魔の手毬唄

 事件そのものは30年で問題なし。ここでは金田一が関わっていない、20数年前の事件についてもまとめて事件の全容を年譜化して紹介する。

 由良家(枡屋) 仁礼家(秤屋) 大空ゆかり(錠前屋) 

天明年間

 鬼首村の領主伊東佑之介、狩猟に託けて領地を巡視し、女狩りを繰り返す。寛政に改元する前後に謎の急死。周囲から一服盛られたのでは、とは多々羅放庵氏の談。

 この非行を唄った手毬唄が生まれる。

明治元年

 武鑑には鬼首村在地の伊東信濃守、一万三百四十三石とある。

 

大正末

 仁礼仁平、持ち山で葡萄栽培を始める。

昭和5年

 青地源次郎、主任弁士となる。

 青地歌名雄誕生。

昭和6年

9月18日 満州事変。

 トーキー映画「モロッコ」、神戸で封切られる。

おわり頃 由良卯太郎、恩田幾三の後ろ盾となってモール作りの副業を鬼首村に広める。

 別所春江、恩田の身の回りの世話を焼く。

昭和7年

秋 亀の湯の次男青地源治郎、妻子を連れて帰村。恩田のやり口に疑問を呈する。

11月25日 源治郎、恩田の住む多々羅放庵の離れに向かう。

 放庵、夫婦喧嘩の末に飛び出した五番目の妻を探し回る。

 源治郎の妻リカ、放庵宅で死体を発見する。

昭和8年

 事件から3、4ヶ月。磯川警部、被害者と加害者が逆ではないかと疑念を抱く。

 リカ、娘里子を出産。

 春江、恩田の娘千恵子を出産。父蓼太の子として入籍される。

4月16日 由良敦子、娘泰子を出産。

5月4日 仁礼咲江、恩田の娘文子を出産。表向き兄嘉平の娘として入籍。

昭和10年

8月10日 由良卯太郎、失意の内に亡くなる。

昭和11年

 2・26事件。

 放庵、家屋敷を売る。棟の一つを溜め池の近くに移設して住む。

 仁礼嘉平、由良家の敦子未亡人と一時関係を持つが、父仁平の叱責と放庵の暴露話(泰子が恩だの種であるということ)を聞いて関係を絶つ。

戦時中

 仁礼家の葡萄で葡萄酒を作って販売。物が不足していたために飛ぶように売れた。

昭和20年

3月 春江、娘千恵子を伴って疎開。

8月15日 終戦。

 仁礼嘉平の長男直平が満州より復員。程なくして妻を迎える。

 仁礼家の葡萄酒工場、終戦により開店休業。

昭和23年

 春江親子、村を去る。

昭和28年

 由良家の長男敏郎、シベリアから復員。

 多々羅放庵、手毬唄について由良家の五百子刀字に取材。

 「鬼首村手鞠唄考」が雑誌「民間伝承」の9月号に掲載される。

昭和29年

5月頃 放庵、最後の8番目の妻に逃げられて現在の家に移る。

夏 おりんより放庵へ復縁を願い出る手紙が出される。

 由良敏郎、結婚。

 仁礼嘉平、妻秀子を亡くす。亀の湯のリカをしばしば訪ねる。

昭和30年

春(4月27日) おりん、亡くなる。放庵にも死亡通知が送られるが音沙汰無し。

7月25日 金田一、磯川警部の紹介で鬼首村に足を踏み入れる。

翌日 金田一、共同浴場で多々羅放庵氏と会う。

8月1日(8日目) 金田一、内風呂で仁礼嘉平と話す。

8月7日(鬼首村に来てちょうど二週間) 金田一、放庵宅を訪ね、おりんさんへの代筆をする。

 10日 由良卯太郎の祥月命日。金田一、所要で兵庫県総社村へ行く。途中、仙人峠でおりんと名乗る老婆とすれ違う。雷雨のため、井筒屋にて一泊する。

 11日 金田一、井筒屋で大空ゆかり(別所千恵子)の出迎えにきた青年団と遭遇。

 金田一、放庵氏の失踪を知り、亀の湯に来合わせた磯川に報告する。

 12日 磯川警部の強い要請により放庵失踪事件の捜査本部が亀の湯に出来る。

 13日 由良泰子、謎の老婆に連れられて姿を消す。里子、泰子を見かけるが、隠れてしまって声を掛けず。

 14日 泰子、滝の中で死体となって発見される。敦子、嘉平に犯人ではないかと詰め寄る。

 泰子の葬儀。敦子、泰子が嘉平の娘でなく姪であることが公然の秘密であることを話し、その父が恩田ではないかと加える。しかし泰子の「父の臨終についての疑惑」については言葉を濁す。

 仁礼文子、葬儀の帰り道で行方不明となる。

 15日 文子の死体発見。仁礼勝平と歌名雄の口論。

 金田一、五百子刀自より手毬唄を聴かされ、一連の殺人の見立ての意味を知る。金田一、唄の内容から”三番目の娘”が歌われているのではないかと疑う。

 文子の葬儀。鳥取から駆けつけた実母咲江、文子が恩田の胤であることを認める。仁礼嘉平、泰子の父親も恩田だと暴露する。

 金田一、神戸へ調査に向かう。出発前に三番目の娘は錠前屋、つまり次に狙われるのは大空ゆかりではないかと警告する。

 青地里子、失踪。

 16日 里子の死体発見。何故か着衣がはぎ取られていた。金田一、夕刊で事件を知り改めて電報でゆかりの警護を求める。

 金田一、「民間伝承」を手に入れて戻る。

 ゆかり御殿より出火。青年団が山狩りに出ていたために消火活動が遅れて全焼する。

 犯人、溜め池に沈む。一時間後、山より帰った青年団により引き揚げ作業が行われる。作業に立ち会った歌名雄、犯人を知る。

 17日 金田一、事件の真相を語る。

 18日 放庵の死体発見される。

 24日 金田一の仲介で歌名雄とゆかりが異母兄妹として対面。

8月末から9月中旬 金田一と磯川警部京阪から大和奈良を遊ぶ。

9月20日 金田一、京都駅で磯川警部と別れる。

年譜→昭和30年