悪魔が来たりて笛を吹く

 創作の元となった「帝銀事件」は昭和23年。この事件で元子爵がモンタージュから取り調べを受けて失踪自殺した。とここまでは史実。(「真説・金田一耕助」)

 冒頭でこの作品の発表が2、3年遅れた事情の説明が書かれるが、実際に予告(その時の題名は「落葉殺人事件」)から執筆まで3年の遅れがあった。初めの予定では「本格的な探偵小説」のはずが、実際に書かれたのはスリラー色の強いものであった。シチュエーション先行で構成され、そこに結び付けられるべきトリックが思いつかなかったらしい。

* 作品年代は22年だが、実際に書かれたのは26年。この作品に戦前からの等々力警部を登場させたのは、由利モノの継続を諦めた結果では無いか。

大正11年

 新宮子爵死去。息子利彦が爵位を継承。財産については娘アキ(火+禾)子(当時十五歳)の方に多く与えられた。

大正13年

6月 「悪魔」誕生。植辰こと河村辰五郎の子として入籍。

昭和2年

 新宮利彦子爵の長男一彦誕生。

 この頃 玉虫伯爵、明石の別荘を手放す。

昭和4年

 椿英輔子爵の長女美禰子誕生。

昭和19年

6月 河村治雄出征。

8月27日 堀井小夜、自殺。

 小夜の生母駒子、出家して妙海と名乗る。

昭和20年

3月 大空襲で焼きだされた新宮子爵一家が椿邸に身を寄せる。

昭和21年

5月 治雄復員。小夜の自殺とその原因を知る。

夏 椿家に泥棒が入る。持ち去られた雷神・風神像のうち、雷神像だけが捨てられて発見される。

秋 三島東太郎、椿家に出入りするようになり、やがて住み込む。

暮れ 玉虫伯爵、椿邸に同居する。

昭和22年

1月14〜17日 椿英輔子爵、謎の調査旅行。家人には箱根と言っていたが、実際には明石。

1月15日 天銀堂事件。

2月中頃 飯尾豊三郎、天銀堂事件の容疑者として拘引される。

 20日 椿子爵、邸内の何者かによる密告を受け天銀堂事件の容疑者として警察へ拘引される。

 26日 アリバイが証明されて釈放。娘美禰子に「この屋敷には悪魔が棲んでいる」ともらす。

3月1日 椿子爵失踪。4日に警察に届けられ、翌日紙面を賑わす。

 13日 華族世襲財産法廃止。

 子爵の演奏を吹き込んだ「悪魔が来たりて笛を吹く」のレコードが発売される。

4月15日 椿”元”子爵、信州霧ヶ峰の林で死体となって発見される。

7月〜10月 太宰治の「斜陽」が新潮に連載。同年に刊行される。

夏 美禰子の蔵書に挟まれた英輔氏の遺書が発見される。

9月25日 元子爵夫人、死んだはずの夫を見かけて恐怖する。

 28日 椿美弥子、等々力警部の紹介で松月を訪ね金田一に調査を依頼する。

 29日 椿邸にて砂占い。その夜、同居していた玉虫元伯爵が殺害される。

 30日 英輔氏の黄金のフルートのケースが発見され、その中から天銀堂事件の贓物が出てくる。

10月2日 金田一、英輔氏のアリバイの再調査に同行。

 4日 椿邸で新宮利彦元子爵が殺害される。凶器として行方不明だった風神像が見つかる。

 5日 早朝 金田一、兵庫県警の刑事から連絡を受けて東京へ引き返す。

 6日 金田一、椿邸に駆けつける。天銀堂事件の容疑者の洗い直しを進言。

 10日 天銀堂事件の容疑者飯尾豊三郎が死体となって発見される。

 台風。椿夫人、悪魔の正体を知り、鎌倉の別荘へ逃亡。そこで仕込まれていた毒を飲んで死亡する。

 11日 治雄自害。数日後遺書が発見される。

年譜→昭和22年