テーマ23 柳生十兵衛の陰謀

 これは柳生十兵衛自身が企んだ陰謀と言う意味でなく、柳生十兵衛のイメージを作り上げる過程そのものを陰謀と表現したものです。(元ネタは佐治芳彦著「聖徳太子の陰謀」)

 取り上げるのは第拾玖稿でも少し触れた「柳生一族の陰謀」。但し劇場版やドラマ版ではなく、それを元にした松永義弘氏によるノベライズ版を扱います。

史実性と娯楽性と

 まず原作をご存じない方のために簡単にあらすじを紹介しますと、二代将軍秀忠が史実より早く元和9年に毒殺されるところから話は始まります。これは家光を廃嫡し忠長を三代将軍に立てようとする秀忠の動きに対して春日局と松平伊豆守の抵抗だったのですが、これに気付いた柳生但馬守がこの陰謀に加担して家光の擁立を推し進めようとします。一方、忠長方にも土井大炊頭と言う大物が加担。さらに朝廷の中にも徳川家の内紛を利用して王政復古を図る一団が現れて三つ巴の暗闘が演じられます。

 家光派の首魁は本来なら松平伊豆守なのですが、彼は主殺しに全神経を使い切って腑抜け状態。(但馬守に信長を殺した後の光秀の如くと表現されます。)そこで陰謀の中心となるのが但馬守。ここからタイトルが導かれることになります。

 一方、土井大炊頭の参謀となるのが別木庄左衛門。史実では後年に承応の変を起こす人物です。ありがちな由比正雪をあえて外してくるところが通というか。

 将軍宣下を得ようと上洛する家光。その通り道である東海道には忠長の領国である駿府もあります。その領内で襲われたことを理由に忠長を反逆者とする家光。忠長は密かによしみを通じた諸大名に支援を求めますが、味方に取りこんだはずの安藤右京が先陣として駿府を囲み、さらに和睦の使者として母崇源院が現れたことで忠長はあっさり降伏してしまいました。

 これでめでたしめでたしかと思いきや、興津での家光襲撃が家光方による自作自演であることが尾張公に漏れてしまいます。それを知った但馬守は実行犯である根来衆を皆殺しにして証拠隠滅。このやり口に怒った十兵衛は江戸城で家光の首を斬って逐電してしまいます。

 でここまで無茶苦茶をやったのに、徳川の世は史実どおり安泰でした。で小説は締められます。

 この史実破壊な娯楽作品で唯一史実を感じさせるのが元和9年と言う年代設定。これは家光が将軍職についた年にあたります。もちろん秀忠は存命で大御所として政治の実権は握り続けるわけですが。そして忠長の身柄を預かったのが安藤右京。ここだけがかろうじて史実を踏襲しています。

錯綜する史実

 さてここまでは原作である映画の単なるノベライズなのですが、この作品は続編が有ります。映像化する意図が有ったのか無かったのか、その辺は定かでは有りませんが。

 前作から一年後、話は但馬守の死から始まります。死因は前作のラストで息子十兵衛から受けた傷。この続編には年代を示す記述が全く有りませんが、史実より早い死であることは流れで分かります。父に代わって主役を張るのが宗冬。但馬守と十兵衛の対立構造を引き継ぐこととなります。

 この作品では寛永時代の大事件が史実とは異なる順番で発生します。その流れがなんとなく辻褄が合って居るように見えるのが上手いと言うか。

 史実との最大の違いが秀忠夫人・崇源院が存命なこと。にも関わらず保科正之が大名として会津を領しているらしいこと。この正之が宗冬と伊豆守の最大の敵となって立ちふさがります。正之による贋家光排除計画が発動、の寸前で起こった島原の乱により事態が急転直下、収束の方向に向かうのですが、この乱も実は宗冬による裏工作によるもの。

 完璧にまとまった宗冬の陰謀をあざ笑うかのようなラスト。これは説明すると面白くなんですよねえ。

応用

 さてRPGへの応用を考えるとしたら、史実シナリオで実在の事件をイベントとして組み込む展開でしょうか。史実イベントに架空のPCを絡めて、如何に破綻させずに着陸させるか、これはマスターの腕の見せ所と言ったところ。

復刊.com 柳生一族の陰謀&続・柳生一族の陰謀

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