テーマ10 魔王伝説

 今回の素材はコンプティーク→電撃王に連載されていた伝奇ライトノベルズ「瑠璃丸伝」(電撃文庫・松枝蔵人)です。

 連載中は読んでいましたが、角川騒動の影響で雑誌移動・連載中断のため、最後まで読んでいませんでした。最近、古本で全七巻を入手して一気読みしてみました。

 リアルタイムで追っていたら、ラストでがっくりしたかも知れませんが、今読むと、まあこれも有りかなと。

魔王と言えば…

 やはり信長。しかしこれは本人が自称していますので、漫画では結構見かけた気がしますが、真っ当な伝奇小説では逆に敬遠されてしまうネタでしょう。

 この話ではスサノオに始まって、平将門を経て信長に至る魔王の系譜が背景として語られます。そしてこれを討つ正義の担い手が忍者と呼ばれます。善悪の役割が非常に分りやすい構成ですが、忍者の役割が歴史上正しく評価されていないと言う点に捻りが感じられます。

 問題は魔王を影からサポートする存在が有り、魔王を討つ側との三角形を構成しています。スサノオ+大国主×ヤマタノオロチ(これが後の忍者の各流派となる)、将門+貞盛×藤原秀郷(俵藤太)、信長+光秀=天海×忍者たちという具合に。これら魔王の使徒たちは魔王を補佐しつつも決して忠実ではないと言う一筋縄ではいかない存在で、これが話を面白くしています。

難を言えば…

 信長が魔王になった時期が「桶狭間の戦いの時」とされていますが、歴史オタクとしては、1)桶狭間は決して奇跡の勝利ではない、2)この後も決して順風満帆であった訳でもない、と言う点から疑問です。敢えて反論するなら、金ヶ崎の退き陣の時が適当ではないかと思います。信じていた義弟浅井長政に裏切られた信長が豹変する、と言うのが話としては面白い。それに、桶狭間の時には光秀はまだ信長の家臣ではありませんので、これをさも見て来たかの様に語る天海には納得できませんし。 

 義経が忍者ではないか、翻ってこれに討たれた平家は魔王と繋がっていたのではないか、と言う設定も有りましたが、話の本筋と繋がらなかったのでそれ以上は触れられませんでした。源平合戦の平氏は確か貞盛の末裔じゃ無かったかとか、信長も平氏を名乗っていたので魔王=平氏という規則があるのかとか色々想像が広がりますけどね。

 信長に焦点が当たりすぎて、秀吉や家康の影が薄いのも残念な点でしょうか。家康なんかほとんど天海の傀儡みたいな扱いだし。

ついでに…

 魔王として将門の名が上がって居るので、対照作品としてやはり「帝都物語」(角川文庫・荒俣宏)を挙げておきましょう。過去の伝説を下敷きにしつつも、舞台は現代から近未来という点も類似しています。それに角川がらみだし。

 忍者がらみではやはり「産霊山秘録」も挙げられます。この作品で最後に辞めさせられた「長すぎる」首相は恐らく佐藤栄作で、となるとその後就任した棚下幹事長というのは田中角栄でしょう。(連作としての一部発表が昭和四十七年、刊行が四十八年) 天海を最後に訪ねたのが恐らく田中首相なのでその辺でもシンクロしているかも。 

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