世界観比較私論 ホラー編

§1 帝都と魔人 荒俣宏

 荒俣式オカルト史観に満ちた世界。普通、知りすぎると嘘が付けない(つまり小説にならない)物だが、氏はその例外らしい。(当時にとって)未来に当たることまで書いて、昭和天皇が亡くなったとき、これで「帝都物語」は成立しないと考えていたが、その後の外伝「機械童子」で辻褄を合わせてしまった。しかもこれには黒田龍人も登場しており「シム・フースイ」とも矛盾無く繋げられる。

 前日談である「帝都幻談」「新帝都物語」により魔人加藤の正体が描かれ、帝都の壊滅を目論んでいた加藤の動機的なものも見えてきた。また「異録」により我々知る加藤保憲が二代目であることも分かる。これで帝都物語における理由無く(と傍目には見える)破壊活動にも一応の説明がつく。彼は初代重兵衛から能力と(帝都破壊という)使命を押し付けられた不幸な少年だったわけだ。

 前日談二作品では両者の違いを意識してか、通称である重兵衛で呼ばれる。江戸時代にはそもそも実名を呼び合う風習は無い訳で、おそらく呪術的な意味合いからも、敵方は”保憲”と言う実名を知らないのだろう。

 それでも能力に目的を見出せる加藤保憲(二代目)はまだ幸せかもしれない。シム・フースイに登場する様々な超常能力者は目的を見出せずに苦悩している。例えば黒田の相棒である有吉ミヅチ、あるいは二巻「二色人の夜」に登場するユタの少女安里小夜等々。こうした”超常能力者の悲劇”がシム・フースイの隠されたテーマなのかも知れない。

 さて「異録」で予告された「加藤重兵衛が、小笠原で展開した行動」については未だ書かれていない。しかしこの小笠原と言うキーワードは注目に値する。「幻談」では南朝の公達がこの無人島に渡ったと書かれているが、同じく小笠原が登場する「地球暗黒記」もこのサイクルに含まれるのでは無いか。

 「新帝都物語 小笠原編」(仮)が書かれることを強く祈念してこの稿を終わる。

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