神統記 第三版
第一章 種別総論
カテゴリーU 星統記
錬金術、占星術と天体神 天体神への信仰はその民族が有る一線を越えて大発展を遂げた証拠でもある。食料に余裕が無くては夜の天を仰ぎ見てそこに神を見出すことは出来まい。そこから占星術が生まれるのはある種の必然であろう。
太陽 昼の天空の王 金
ウトゥ女神(シュメール)・シャマシュ(アッカド・バビロニア)・アメン=ラー(エジプト)・ヘリオン→アポロン(ギリシア)・アポロン(ローマ)
シュメールは世界的にも希有な太陽女神ウトゥを頂くが、それ以外の地域では太陽は男性格である。(これ以外では日本の天照がありシュメールと日本の関連性が囁かれる根拠となりうるが、日本のそれは太陽神の巫女が神へとすり替わったものと思われる)各々の太陽神の性格の違いは民族性を表している。
ギリシア=ローマでは太陽神がヘリオン(またはヘリオス)からアポロンへと交代している。アポロン神は様々な属性を有する興味深い神だが、この太陽神化は(元々無かった)天空神的属性を附与して、父ゼウス=ユピテルからの王位継承(簒奪)劇を暗示しているのかも知れない。
月 夜の天空の女王 銀
ナンナ・スエン男神(シュメール)・スイン(アッカド・バビロニア)・トート(エジプト)・セレネ→アルテミス(ギリシア)・ディアナ(ローマ)
シュメールで男性となっている他は女性格であるのは、太陽との一対が想定されているからであろう。太陽が昼の王であるのに対し、月は夜の女王である。ギリシア=ローマでの交代は太陽と同じ。太陽と月がセットで兄妹なのもやはり基本らしい。
金星 地上世界の女王 銅
イナンナ(シュメール)・イシュタル=アスタルテ(アッカド・バビロニア)・イシス(エジプト)・アフロディテ(ギリシア)
女王である月を別格とすれば、夜の天空でもっとも明るく輝く惑星(神話学的には太陽と月も惑星である)が金星である。後に習合されたアフロディテを除いて配偶者(イナンナの夫ドゥムジ、イシュタルの夫ギルガメッシュ、アスタルテの夫タンムズ、イシスの夫君オシリス神)はいずれも地上世界の王である。配偶者が神であるエジプトの場合は王は夫婦神の息子ホルス(すなわちファラオ)に比定されるという違いはあるが。
配偶者、即ち王は様々な理由で滅び交代もしくは再生するが、神である女王の地位は不動である。これは途切れることのない母系社会と、それに依存するしかない(男は妻の生んだ子が己の血縁であることを完全には証明できない)外来の父系社会との関係を象徴している。これは父系支配の強くなる第四世代において解消される。アフロディテがもはや女王でない(アフロディテは王位簒奪劇の過程で生まれたと言う出生の逸話からして旧王家の生き残りという風情がある)のはその顕れであろう。
水星 錬金術の神 水銀
ナブー(エジプト)・グドゥド・ヘルメス(ギリシア)・メルクリウス(ローマ)
水星は元は金と銀の合金であったが、後に水銀を象徴するようになる。水銀が錬金術の三元の一つになると、水星は錬金術の象徴にも成る。錬金術がヘルメスの科学と呼ばれるのと、どちらが先なのであろうか。ともかくこの後、天然の水銀は「卑俗な」と形容されるようになる。神としては男性格だが、水銀は錬金術では男性である硫黄と対になる女性格である。
火星 赤き血の軍神 鉄
ネルガル(イシュタル)・ムスタバッル(シュメール)・アレス(ギリシア)・マルス(ローマ)
火星はその赤い色から血を連想され、それ故に軍神を割り振られた。原初の火星神ネルガルはイシュタル女神の姉でシュメールの冥女王エレキシュガルの夫君でもある。カルディア人(バビロニア)の時代には冥王星は発見されていないが、知られていればエレキシュガルが冥王星に比定されたであろう。
木星 神々の王の座 錫
マルドゥク(バビロニア)・ゼウス(ギリシア)・ユピテル(ローマ)
王を象徴する惑星である。
土星 鉛
エヌルタ(バビロニア)・カイマーヌ・クロノス(ギリシア)・サトゥルヌス(ローマ)
補注 ゲルマン神話には占星術の影が薄い。よって曜日に名を留める神々と星の関連性には触れなかった。火曜日はチュールの日だし、水曜日はオーディン、木曜日はトール、金曜日はフレイに対応している。チュールは勇ましいが、軍神と言うより司法の神だし、オーディンは神々の王でありながら王の星=木星と照応しない。またトールは神統譜上は軍神としてアレスやマルスと習合すべきなのだが、雷神という属性から、ゼウス=ユピテルの系統に附されている。フレイは男神であり、他の金星の女神達と照応しない。彼にはフレイアという妹が居るが、これを対応させる方が通りは良いのだが。