魔法世界の食文化

§3 食品加工と魔術

 現代に実用化されている様々な調理器具台所用品は古代人から見れば魔法の産物としか見えないだろう。その点から見ると、食品加工技術が起源と考えられる魔術は多い。

3−1 浄水と殺菌消毒

 汲んだばかりの濁り水も時間を置けば澄んできて飲めるようになる。浄水の儀式と言うのはある種の生活の知恵から来たと言えよう。また加熱調理は味を良くするだけでなく雑菌を殺すという効果もある。調理にまつわる呪術というのはそうした些細な経験から発生したのであろう。

3−2 加熱と冷却

 RPGなどで加熱対象を金属に限定しているのは運用上の便宜からであろう。これは元は鍋などを加熱して調理に利用していたのではないか。光を出さない調理としては電気調理器などがこれに当たるだろう。だがもっと魔法的な器具としては電子レンジが考えられる。あれは水分子を振動させて加熱する仕組みであった。これを魔法で再現出来るとかなり危険な攻撃魔法が出来るであろう。

 冷却というのは原理的には加熱の逆になる。つまりは分子運動を不活性化すればいいのである。言葉にするのは簡単だが、温度を一度上げるのと一度下げるのでは明らかに難度が異なる。多くのRPGでは加熱と冷却は等価で扱われているが、科学的に見れば下げる方が相当に難しいはずである。それに冷却系には絶対零度という下限が有るのに加熱系には上限がない。

3−3 乾燥

 食料保存の方法として乾燥法がある。これは実用化出来れば応用範囲が広い。これが有れば例えばエジプトでのミイラ作りなどもかなり容易になるだろう。

 さて、保存を目的とした現代の乾燥法の最高峰と言えばフリーズドライ法であろうか。これは簡単に言うと、食品を凍結させてそのまま水分を固体から気体へ昇華させて除去すると言うことらしい。それには凍結と真空下での加熱処理が必要となるらしい。

3−4 加圧と減圧

 と言う訳で加圧と減圧である。加圧の方はさほど難しくないだろう。密閉して加熱すれば気体の圧力が増して高圧環境が実現する。問題は減圧の方である。だがこれが実現出来れば気象の制御にも威力を発揮する。と言うことは既に食品加工という狭い分野の話ではなくなる。減圧が可能で有れば先に見た冷却についても効果を発揮する。

3−5 発酵と腐敗

 どちらも微生物の活動に因るモノであり、人間にとって都合の良い変化が発酵(あるいは醸造)であり、都合の悪いモノが腐敗であると言える。

 専門性が強く、魔法世界では恐らく魔法使いの扱う領分になるだろう。

3−6 製塩法と塩蔵法

 腐敗に対抗する一策として塩漬けにすると言う手法(塩蔵法)が発生した。内陸部では岩塩より、そして海岸部では海水より抽出する製塩法が開発される。

 東洋では”清めの塩”という考え方がある。食品を保存する塩の働きが一種の魔よけの効果として認知されたモノであろう。そこから発展すれば、魔を払う聖水は恐らく塩辛いであろう。

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