世界観比較私論 ファンタジー編
§2 真世界(アンバー) ロジャー・ゼラズニイ
ロジャー・ゼラズニイの描くSF的な多元世界・アンバーは世界観の大きさという点ではムアコックの多元宇宙に匹敵する。但し、ムアコックの物が個々に独立しているのに対し、真世界は中心点がはっきり定まっている。つまり、すべての多元世界はこの世で唯一の、真の世界アンバーの影なのである。
主人公はこのアンバーの王子の一人で、人類から見れば神にも等しい存在である。彼らアンバーの王子達はシフトと呼ばれる行動で、影の中を歩き、自分たちの望むままの世界を作り出す事が出来る。正しくは無限に有る世界から理想の一つを選び出すのであるが。SFの分野ではパラレル・ワールド物、もしくはオールターネット・ワールド物と言うらしいが、作品のイメージはファンタジーっぽい。ファンタジーとSFの融合的作品を得意とするゼラズニイの特徴らしい。
しかし、真世界シリーズと名付けられた一連の作品の魅力はむしろそのアンバーの王子達の繰り広げる陰謀と闘争であろう。宿敵だと思っていた相手が実は命の恩人だったり、全ての騒動の原因となった父王(そもそも彼が誰にも知らせずに失踪した事から王子達による一連の継承争いが始まったのである)が意外なところから現れたりと、最後まで目が離せない。
こういう説明をして薦めると、友人は一様に「流石は」と褒めて?くれるが、手に取ろうとはしない。まあ日頃の行いの賜物であろう。
註:基本的に”魔法使い”プレイヤーである私は、剣に訴えるより舌先三寸の謀略を得意とする。だって、戦闘になったら魔法使いの見せ場は少ないじゃないか。戦闘で火の玉を連発する大味な”大砲キャラ”なんかやるつもりはないし。
これは次世代による続編が有るらしい。そちらへの期待も込めて復刊を希望。
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補項T ディルヴィッシュ・サーガ
結構べたなヒロイックファンタジなので世界観は略すとして、大味な破壊的魔法しか使えない主人公ディルヴィッシュと、馬の格好としたその従者ブラックのコンビは絶妙である。
余談だが、私は此の作品の影響で、某RPGで使い魔に馬を指定して使ったことがある。メンバーは誰も此の作品を知らなかったので単に”使い馬”と言う一発ギャグで終わったが。
補項U 魔性の子シリーズ
ストーリーはさておき(悪いという訳では無いが)、魔法に関する描写は秀逸である。私はこれをRPGのシステムで再現しようとして挫折しました。正規の修行を受けた魔法使いと、天然の魔法使い(外道=マッドウォンド)の類比がまた良い。
再読して改めて気付いたのですが、主人公の名前がポル・デットスン。デットスンとは”デットの息子”を意味します。そして彼の父の名がデット・モースン、つまり”モーの息子”と言うことは、魔王デットを倒した老魔道師モーは実は魔王デットの父親であった。であれば、モーが赤子のポルを殺さずに異世界に放逐したのも頷けます。
孫を迎えにきたモーが異世界で亡くなったのも、ポルを元の世界に戻す為の身代り。(このときに老魔道師の手首に現れた”竜の形のあざ”が彼らの血縁関係を暗示しています)そしてモーの死によってポルの替わりに連れてこられたマークは自分の世界に戻れずに死ぬことが確定してしまった。