汎世界論V 魔法パラダイム論
§1 記録的魔法文化
占星術と言うものは天変の記録を地上の事象と結び付けようとする努力の結晶である。現実にはそこに法則性など存在せず、どこまで言っても経験主義的なデータの蓄積でしかない。これを維持するためには相当な労力を必要とされ、それを支えるのが東洋的専制主義であった。これが東洋の記録的魔法文化として結実する。
記録的魔法文化はその性質上の要請から紙と言う記録メディアを生み出した。そしてこの発明が文書による伝承を可能とせしめた。文書伝承システムは学問上の師を必要としないため、魔法の一般化をもたらすと同時に文化的停滞を生み出すこととなる。
§2 論争的魔法文化
これに対して古代ギリシアの民主制社会における論争による政治が西洋に異なる魔法文化を発生させた。論争的魔法文化は論敵を打ち負かすことを目的とする詭弁的な側面を生じたが、これに対抗して絶対真理を探究する一派が誕生した。こうして論争・収斂・蓄積と言う三段階の魔法発展システムが確立されていく。
論争的魔法文化は師から弟子へと口伝的に受け継がれていく。東洋から紙文化が伝来しても、書き記せない秘伝部分は依然として残った。この多様化は西洋の魔法文化の継続的発展を支える基盤となった。やがて東洋の量を西洋の質が凌駕する時が来る。
§3 職業的魔道師
職業的科学者の発生源として三通りが考えられる。第一に官僚科学者、第二が独立自営型のプロフェッション。そして第三がディレッタント(参考文献ではすねかじりアマチュアと表現)。
さてこれを魔道師に援用するとどうなるか。官僚魔術師は普通にありそうである。それに続く自営業魔術師の例としては、呪術医・占い師そして錬金術師。これらはそれぞれ現代の医師・コンサルタント・科学者に相当する。更にもう一つ修道士も魔道師足りうることを忘れてはならないだろう。
§4 アカシックレコード
史実の科学史ではこの次に活版印刷つまりグーテンベルク革命が来るのだけど、魔法世界では異なる可能性を持つ。つまり魔法による通信技術を応用した内宇宙ネットワークの登場である。
魔道師の口伝伝承が精神感応通信へと進み、更にこれをネットワーク化した異空間情報蓄積システムが構築される。実際のネットとの違いは、特定の言語によって拘束されないということだ。アクセスできるのは特別な才能を持つ魔道師のとなるが、これは招待制のSNSを想起してもらえばよい。これを神智学用語を流用してアカシックレコードシステム(ARSと略す)と呼ぶ。
ARSは西洋魔法文化の産物であるが、間もなく東洋の魔道師たちもこれに参加して東西魔法文明は劇的な融合を遂げる。