錬金術の本質

§1 錬金術の起源

 錬金術は地中海沿岸の3つの地域の文化の変遷(融合)を経て発展した。三つの地域とはアフリカ(=特にエジプト)、ヨーロッパ(特にギリシア)、そしてアジア(=アラブ世界)である。

 これは更に時代別に細分出来る。第一が紀元前十三世紀より発生したエジプトやバビロニアの冶金術から取り入れられた技術的側面、第二が紀元前七世紀以降に取り入れられたギリシア哲学のに起因する哲理的側面、そして紀元後一〜三世紀に掛けて形成されたヘルメス思想に見られる宗教的側面である。

 錬金術は中世期にはアラブ・イスラム文化圏において研鑽された。アラブの錬金術はヘルメス思想を発展させて、新たに硫黄−水銀(我々が今知る”元素”とは異なり精神的要素を加味した”本質”である)の理論を打ち立てた。つまり、あらゆる金属は硫黄と水銀の結合によって構成されていると言う理論である。

 十二世紀ルネッサンスを経てパラケルスス(1493〜1541)に至ると、医化学と融合して水銀(=流動体)と硫黄(可燃性揮発体)と塩(固体)と言う三元理論が生まれる。この辺りが史実における錬金術の頂点であろう。

§2 錬金術の概念

 初期の錬金術は、上記に見た様に単なる冶金術であったであろう。問題はその先で、この技術に如何なる理屈付けをするかと言う段階にある。近代科学が物心二元論を採るのに対して、魔術理論では世界(=マクロコスモス)と人間(=ミクロコスモス)とが不可分で相互に照応する。故に錬金術も単に物質としての金を精製するに留まらず、それを作り上げる錬金術師の精神の向上が不可欠となる。そして手段であった筈の”賢者の石”や”錬金薬”の研究がいつしか目的化していった。

 プラトンの四元素論については医学に関する別稿でも触れたが、その弟子アリストテレスは第一質料へ至る中間実体として第五元素=エーテルを提唱した。これは後の新プラトン主義者からロゴスと呼ばれ錬金術の賢者の石と同一視される。

 中世の錬金術において、四元素は空気=気態、水=液態、土=固態、火=エネルギー(プラズマ態)を意味する。

 関連稿 魔法世界の資本論 §3 錬金術の経済効果

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