忍法系譜 その肆 風摩流

その壱 対服部組

 信玄の影武者を巡る武田方真田忍者と徳川方服部組との暗闘*1に際して第三勢力として登場する。ちょい役なので忍法の披露は無し。

 その場にいたすべての男達を虜にした服部の六字花麿の「陰陽転」に只一人囚われなかったのが風摩大太郎であった。理由は簡単で、大太郎が実は女性だったと言うだけ…。

その弐 対香具師

 太田三楽斎の孫にして忍城主成田左馬助の奥方麻也姫を巡って三名の風摩忍者と七人の香具師(+風摩くノ一七忍)とが戦う。*2

 まずは首領の風摩小太郎。前回登場から15年経っているので代替わりしている可能性もある。小太郎自身が披露する忍法は入門試験に用いられた「茎鈴の験し」(厳密に忍法と言えるかどうかは不明)と相手を犬に変えてしまう「黒犬の法」、そして空中に張った髪の毛が刃と化す「風閂」である。

 続いて主敵となる三人の風摩忍者。戸来刑四郎は斬られた(恐らくわざと斬らせる)部分を繋ぎ戻す「落下戻し」の他に首領も用いた「風閂」も見せる。恐らく風摩では広く普及した基本技なのだろう。これと同じ術を後に枯葉塔九郎*3が見せている。

 御巫燐馬 の「砂鋳型」は己が気に入った女性限定と言う変化術である。但し彼本来の砂鋳型を破壊されるとその神通力も失われる。彼はこれ以外にも畳を次々に立てて盾とする「千畳返し」を見せている。累破蓮斎の「忍びの水月」については根来流の稿にて紹介済みである。

 これに対して風摩くノ一たちは接吻によって相手の舌を奪いその本音を語る技を持つ。これは尋問に使えると同時に、相手が舌を噛み切って自害できないと言う副次効果がある。くノ一たちは香具師側に寝返って、「子宮針」(文字通り胎内に毒針を仕込む)、「恋しぐれ」(粘着性のある愛液を放つ)など、女性ならではの忍法を見せる。

 それ以外にも扇から針を降らせる「扇針」や、あらゆるモノが透明に見える「通しやの眼」(一度施すと元に戻せない外科的忍法)、空中や水中に髪を張って警報機とする「風琴」「水琴」がある。 

その参 向坂甚内

 小田原陣において、密かに主家からの離反を見せた風摩であったが、関東の新たな支配者となった徳川家には受容れられなかった。

 風摩の残党は江戸に於いて盗賊として暴れ回ることになるが、三甚内の内鳶沢甚内は古着屋として、庄司甚内(後に甚衛門)は女郎屋として体制との妥協を図る。一人首領格の向坂甚内*4のみは北条家再興を諦めず斬首される。

 同胞をも恐れさせた向坂の忍法が「紅蜘蛛縫い」である。その名の通り蜘蛛を以て目も口も縫い閉じてしまう恐るべき技であったが、彼が最後に縫い取ったのは彼が執着していた主君桐姫の陰部であった。

 甲賀卍谷へ修行に出された里見の八犬士の一人犬坂毛野*5は江戸で向坂の弟子となり風摩流を会得した。彼の「摩羅蝋燭」は男根によって作られた蝋燭によって生じた影を自在に操るモノである。

 これ以後、風摩流は途絶える。

*1 信玄忍法帖

*2 風来忍法帖

*3 忍者枯葉塔九郎

*4 忍者向坂甚内

*5 忍法八犬伝

 

戻る