巻の拾参
§1 転生の時
頼宣が転生の意志を固めその忍体を決めようと言う時、武蔵は離反を決めた。その様子に気付いたお銭が宗意軒に伝える場面から巻き戻し。原作では一抹の不安を抱くのは宗意軒本人だが、漫画の方は自信満々。それでも頼宣の表情を見て武蔵の元へ向かいます。
宗意軒が見た武蔵は既に旅支度。原作では柿色の頭巾を常に被っていますが、漫画の方は絵的にもほとんど被っていません。
松平伊豆守に有って徳川宗家に仕官すると言い出す武蔵。宗意軒はそれを必死に止めようとするが、全ての秘密を手土産にすると言い出す始末。「この宗意軒を裏切るか」と責められるも、「われ事に於いて後悔せず」と有名な言葉で一蹴。漫画ではこのやり取りの前に武器の応酬が有るのですが、こと戦いに関しては武蔵に及ぶ筈もない。余計な台詞はカットして、ばっさりと斬られる宗意軒。原作ではこの後長々と物騒な事をしゃべるのだけど、漫画では斬り落とされた宗意軒の手を踏みつぶして「わが望み聞き入れずば伊豆もまたこうなる」とだけ。
その様子を見ていたのは密かに忍び込んでいた柳生衆の生き残り二人。原作では戸田老(漫画ではそれほどの年配には見えない)こと戸田五大夫と左十こと伊達左十郎なのだけど、漫画では戸田は既に死んでいて代わりに最年少の小屋小三郎。ともあれ逃げ擁するつ二人は武蔵に解体される。
一方、捕えられた二人を忍体に変えようとするお銭。原作では四郎に伝授された髪切丸を使うのだけど、漫画ではこれを最も上手く使えたのは裏切り者のお品であった。そこへ現れた柿色頭巾の男。荒木が生きて戻ってきたのかと勘違いされたが、頭巾の下の目が片方眼帯なのに気付いて攻撃を仕掛けるお銭。漫画では何故気付いたのかは説明がない。これは漫画の視覚効果だろう。
十兵衛はお銭を一刀のもとに切り捨てると、頼宣の「天魔の御所業」を諌め、聞き入れずば斬って捨てると言い放つ。そこへやってきたのは武蔵に斬られた柳生衆二人。足を斬られて歩けない小十郎(原作では戸田老)と顔を斬られて言葉を操れない左十郎。武蔵の計画を告げて絶命する。
紀州藩を救うために、武蔵を斬ると宣言する十兵衛。見開きで「おれはおれ。柳生十兵衛だ」を見えを切る。
§2 魚歌水心
悄然と柳生城を去る大納言一行。
武蔵を誘いだす為に一計を案じる十兵衛。弥太郎を使って伊豆守への密書をわざと武蔵に読ませる。待ちうけるは桑名沖の孤島船島。小次郎との決闘とは逆に武蔵が先着し、遅れて十兵衛が現れる。
原作では待ちうける武蔵はかつての小次郎と今の十兵衛の力量を比較しているが、漫画では巌流島の決闘シーンを回想する。当時の読者にはこの決闘はわざわざ書くまもない有名は話だろうが、今の読者にどれだけ周知されているか不明だからだろう。(新聞連載で吉川武蔵の文章をそのまま載せる訳にもいかないよねえ)
武蔵が二刀を使うなら自分に勝ち目はない。武蔵に木刀を使わせる為の舞台装置がこの船島の決闘だと種明かしする十兵衛。これなら勝てるのかも、と三人娘に思わせておいて、「それでも小次郎は負けた」と落とすお茶目な十兵衛。
そして運命の決闘。初手で十兵衛の放つ小刀を木刀で横凪ぎにして叩き折ると「十兵衛、負けたり」と決める武蔵。戦慄すべき「助言」により位置を入れ変える事に成功し、今度は「講義」をする。しかし十兵衛の捨身の突進がその剣理を打ち破る。武蔵をその木刀ごと真っ二つにする紙一重の勝利。ただし漫画では武蔵本人は真っ二つでは無く、勢いのまま刺し貫かれている。故にそこから二刀を抜く抵抗を見せるが、そのまま後ろに倒れて絶命。
島を去るシーンは無くて、がっくりと座り込んで祈りをささげるシーンで終幕。