巻の拾弐
§1 柳生評定
原作に無い章題。お縫危うしと言うところで現れたのは黒幕森宗意軒。ここからは原作だと会話だけで進むので、シーンのコマ割りは漫画家の見せどころです。
その途中、女に気付いた宗意軒は、それどころではないと下がらせる。ここで牧野兵庫がお縫を連れて一時退場し戻ってくるのだけど、煩雑になる所為か、あるいは裸体の女を残す方が絵的に美味しいと思ったのか、そのまま放置。「たたいておく」と言う台詞で杖でお縫のお尻を軽く叩く宗意軒と言う演出も加えます。
引くも進むもご自由に、と有る意味突き放した宗意軒の言葉に、前身を主張する頼宣。それを押しとどめる忠臣牧野兵庫頭は伊賀に土地勘のある荒木又右衛門を物見に出すと言う妙案を提示。とここまでは良かったけど。
なかなか戻ってこないにじれる一行。宗意軒は兵庫頭を替え玉として送り出す策を提示。万が一の時には全ての責を負って死ぬまさしく忠義の行動であるが。「いってくれるか」と頼む(ほとんど命令ですが)頼宣と「かしこまりました」と受ける兵庫頭の表情は絵の力が大きい。
§2 伊賀越え
死地に追い込まれて苦悶の表情を浮かべる兵庫頭だが、次第に楽観論が頭をもたげてくる。鍵屋の辻へ差しかかった所で顔を隠した四騎の一団。それを物見に向かった又右衛門たちだと思った兵庫頭は、その指示に従って後から現れた柳生十兵衛とそれにつき従う伊賀の無足人衆に銃撃を加える。
先に現れたのが十兵衛と柳生衆で、後から現れたのが又右衛門と根来衆だったのですが、原作では又衛門に化けたのは十兵衛でしたが、漫画では逸見瀬兵衛。十兵衛がやると隻眼に気付かれてばれる恐れが有りますからね。さらに言えば、漫画の根来衆はみんな顔立ちが似ているので顔を向きだすとすぐにばれる。それを考慮して漫画では顔を包帯で隠す演出も。牧野は自分の勘違いに気付くことなく斬り伏せられ、行列が連れていたおひろと弥太郎の姉弟も十兵衛一行に奪還されてしまいます。
紀州侍に銃撃されて斃れたと思われた又右衛門は、しかしまだ存命ですっくと立ち上がる。それをみた瀬兵衛は同輩平岡の仇を討たんと挑んで返り討ち。これは原作では生き残りの根来衆を討ち果たした後、死んだと思いこんで不用意に近づいたところを斬られると言う展開でした。
いずれにしろ伝説の鍵屋の辻において荒木又右衛門対柳生十兵衛と言う世紀の一戦が実現します。刀が折れるのは同じとして、原作ではとっさのみねうちを演じるのに対し、漫画では折れた又右衛門の剣先を空中で掴んでそれを首に突き立てると言う全く異なった結末に。
そして頼宣を罠に掛けた張本人松平伊豆守が登場。
§3 転生のとき
漫画では伊豆守が柳生城で頼宣と対面するところまでが前話で描かれましたが。何れにせよここを「和歌山城だ」と言い張って全てを丸く収めようとする伊豆守。しかし面子を潰されて憤懣やるかたない頼宣。そんな彼にいまこそ転生の時。とそそのかす宗意軒。だが転生衆最後の一人武蔵に異変が。
と言うところで次が最終巻。