巻の漆

 

§1 海潮音(一)

 原作の内容がシャッフルされて順番を入れ替えて再構成されます。

 需要なのは弥太郎が縄を見つけてきて岩壁の深さを測るところと、その綱で弥太郎とお品が結ばれるところ。原作で弥太郎が両方やるのですが、漫画では矢太郎を縛るのは姉。そしてその反対を弥太郎が柴って「これでもう安心だ」と言う。「それでは両方とも危ない」とその真ん中を三枝が握る。これがまさしく死亡フラグなのですが。

 原作と決定的に違っているのが、遠くに現れる宝蔵院胤瞬。原作では初め女連れで、例の儀式を終えて一人で現れるのですが、その場面は(おそらくグロイので)ばっさりとカット。初めから一人だけで現れます。

 そして長口上の後に対峙する十兵衛と胤瞬。原作では眼と鍔と刀身を一直線にすると言う奇妙な構えから鍔の後ろの隠れてしまうと言う、絵になりそうな構えを取る十兵衛ですが、漫画ではあっさりと普通の突き技になっています。一方胤瞬も三角頭巾をつけたままだったため汗に苦労していたのですが、漫画では見栄えを重視してかあっさりと脱ぎ捨てています。

§2 海潮音(二)

 そしてすれ違う両雄。原作では槍を鍔で弾きながら刀身の角度を変えて胤瞬の足を切り飛ばしていますが、漫画では大刀を飛ばして、体勢が崩れた胤瞬の足を切り飛ばしたのは脇差。

 その後はほぼ原作どおりで、片足のまま突進した胤瞬の槍の先には縛られた弥太郎とお品、そして二人と結ぶ綱を握っている三枝麻右衛門。十兵衛の絶叫に反応した彼はとっさにお品を逃がして宝蔵院の槍の餌食となります。

 原作では綱を切るのは弥太郎を捕まえた後、麻右衛門の刀を使ってですが、漫画ではテンポを重視してか初めの槍の一撃で同時に綱も切られています。原作ではその場に倒れ伏した麻右衛門ですが、漫画ではそのまま断崖絶壁へと落ちていきます。これでは絶対に助かりませんね。

 弥太郎を縛っていた綱の反対側を槍に結んで断崖絶壁の反対側へ投げつけてそれを足がかりにして向こう側へ飛ぶ胤瞬。原作では弥太郎は足の間に挟まれているのですが、漫画では左手で抱えられています。

そのまま向こう側へ逃げ去ろうとする胤瞬を追う為に自ら綱を腰に結んで飛ぶ平岡慶之助。原作では五六メートルと表示されているのですが、漫画だと(おそらく写真のトレースだと思うのですが)滅茶苦茶遠く見えます。これを飛越えた慶之助は間違いなく超人レベルですね。

§3 海潮音(三)

 そして綱を握って空中で再激突する二人。負傷して更に動揺している胤瞬はもは十兵衛の敵ではありませんでした。

 原作では此処で章が替わりますが、漫画はもう少し続きます。

 紀州大納言と転生衆との会話。漫画では「次は誰が」などとは言わず、江戸出府を宣言して立ち去ります。その部分以外はほぼ原作どおり。但し最後の如雲斎の台詞は少しだけ端折って、「耳と腕を斬って」と宣言。

 そして、十兵衛陣営のお品の裸で次へ続く。

§4 密使(一〜三)

 お品の水浴びを除く柳生の五人。

 ここで十兵衛へのアプローチの失敗が回想されて、悔しがるお品。それを眺める五人の背後に現れた十兵衛。原作では無言ですが漫画では声を掛けています。

 五人が去ったあと、十兵衛に迫るお品。向こうへ行こうと言われて嬉しそうですが。

 入れ替わりで三人娘と、一人覗きに加わっていなかった最年少の小屋小三郎。そして弥太郎が現れます。二人で歩く十兵衛とお品を見て駆け寄ろうとする小三郎を止める三人娘。

 原作では「剣風は風前の灯火」等と言う名言がでますが、漫画では「貞操が」に変えられて、三人娘の「灯火程度の貞操なんて」と言う返しが入ります。三人の感情は表情で一目瞭然なので、細かい台詞回しは略されたのでしょう。このあたりも文章と絵の違いですね。

 さて二人が向かった先には待機させていた長老二人。原作では描かれませんが、邪魔が入って悔しがるお品の表情が実にいい。

 そして肌密書の説明。指名されたときのお品の驚いた表情がまた可愛い。原作では押さえつけるのに一苦労でしたが、漫画では筆が背中を走る動きに感じて声を我慢しているお品がまたエロイ。

 お品の運び役を任された金丸内匠。そして説明役を押し付けられた戸田五太夫。十兵衛の台詞が、「俺は面倒くさい」で終わっているので、大役を任された内匠とのギャップが際立ちます。

 さて根来忍者の手に掛かって果てる内匠。それに手を合わせるお品。実は自分をかばって死んだ柳生の人間に手を合わせるのは前回の宝蔵院戦のときなのですが、此処に持ってきましたか。漫画での麻右衛門は崖下へ落ちてしまったので手を合わせる閑がなかったんですね。

 そして、ラストは出陣する如雲斎の絵で引き。

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