忍法魔界転生・換装 巻の参

 ようやく登場の主人公。でも内容的には一番地味。

§1 敵の編成(二)

 森宗意軒と対峙した紀州頼宣。

 原作では頼宣に付いての紹介文が展開しているのだけど、漫画でそれをやっても絵にならないと言うことで、刀に手を掛けるという動きを見せています。(この反応は天草四郎が名乗ったときの如雲斎と同じ)

 正雪が頼宣をおだてる台詞は武蔵に売り込むときの台詞の焼き直しなので、一巻と同様にバッサリとカット。

 それよりも宗意軒の弟子として紹介された転生衆の面々の登場。トップは実は転生後は初登場の武蔵。元々転生前から異形だったのであまり変わっていない。むしろしわが無くなった分だけきれいになっている気もします。又右衛門や坊太郎は良いとして、転生したばかりの胤瞬と但馬守が白い着流し姿なのが細かい書き分けです。

 原作では魔界転生に付いて説明した後であと二人の名前を出していますが、漫画では先に二人の名前を出しておいて説明に入ります。

 読み返すと、魔界転生に宗意軒の指が必要で、それゆえに人数制限があること付いてはここで初めて提示されています。漫画版では既に前巻で胤瞬のつれていた佐奈を忍体に変える儀式に宗意軒の指が登場しています。

 そして「ぜひとも魔界に転生させたき漢」として主人公の後姿が登場して引き。

§2 故山の剣侠(一)

 原作では前章がもう少し続くのだけど、頼宣を地上に返した後で”最後の男”に指しむけるくノ一を三人から撰ぶ宗意軒。原作ではこのときに初めて三人の名前が紹介されるのだけど、それは洗礼名だけ。それよりも、原作ではまだ真の主人公の名が秘密なのですね。これを連載で読んでいた人たちはさぞややきもきしたことでしょう。

 指に選ばれたフランチェスカが訪れたのは柳生城。まずは三人のヒロインの顔見せを済ませて、満を持しての主人公の登場。

 実は原作では隻眼とは書かれていますが、「右目は糸のようにほそくとじられたまま」とあって眼帯をしていないようです。有名な鍔の眼帯のネタ元はどこなんでしょうねえ。

§3 故山の剣侠(二)

 敵討ち志願が美女と知って鼻の下を伸ばす十兵衛。お蝶(という名は原作ではここで始めて登場するのだけど)との細かいやり取りは省略して、いきなり束脩として「からだをつかって」と来る。

 原作では十兵衛はここで背中を向けるのだけど、漫画ではそのままお蝶がにじり寄る。そこで「腰を揉んでくれ」と来るのでずっこける。思わず漏れる怒りの表情が可愛い。それはともかく予定通りの色仕掛け、に飛び込んでくる木剣。(漫画版では稽古シーンを見る限り竹刀のようですね)

 思わずくノ一の本性を現して横にはね飛ぶお蝶。そして振り向きもせずに剣を受け止める十兵衛。そして唯一原作と違うのが三人娘の登場。原作では颯爽と現れているのに、漫画では襖を開けて将棋倒しになってどじっ娘アピール。

 最初に口火を切ったのがお雛。それをうけておひろ。ここで首謀者に祭り上げられたお縫がおひろをつねるシーンを交えるのが漫画的。娘達の台詞回しはおおむねそのままだけど、十兵衛の応対を少し変えているのが上手い。そして最後に矛先はお蝶の方へ。

 原作では問い詰められて逃げようとして衣服を捕まれたために服を脱いで壁に消えていくのだけど、漫画ではそのまま服を脱いで壁に消えていきます。見事な技で、普通の忍法帖ならこれで逃げられるところなのだけど、十兵衛には通じない。

 もう一点、原作と大きく違うのがこのとき様子を見ていた天草四郎。十兵衛がそれに感づいてお蝶の残した小柄を投げるシーン。原作では法螺貝を使って盗み聞きをしていたようなのだけど、やはり絵的な問題でしょうか。

§4 故山の剣侠(三)

 白髪の増えた木村助九郎の登場。柳生忍法帖にも登場した四高弟をしっかり同じ絵で紹介しているあたりが義理堅い。

 助九郎の堅苦しい挨拶を毛筆フォント?で表現するところが上手い。三人の娘を引き取ると言う要件に「嫌です」と声を揃える三人娘。「何故だ」と問われて真っ先に理由を言い出したのがやはりお雛。原作どおりなのだけど、三人を書き分けようと言う意図が見て取れます。

 しかし口実として持ち出した「妙な女」は十兵衛本人にあっさり退けられます。その後のやり取りはおおむね原作どおりなのですが、やはり絵があると雰囲気が違う。

 三人娘を見送るシーンで、それを遠くから見つめる天草四郎。そこから一気に飛んで忍体選びに臨む和歌山城の三人娘で引き。

§5 黄泉国(一)

 天に選ばれた三人。突き出された槍をひらりと交わした助九郎の孫・お縫。がっしりと掴んで引き倒したのが関口柔心の娘・おひろ。そして懐剣で切っ先を切り飛ばしたのが田宮平兵衛の孫・お雛。おひろとお雛が原作と逆なのだけど、二人の血縁を考えれば、むしろこれが正解ですね。

 牧野邸に忍び込む助九郎・柔心・平兵衛。三人の中で一番若い柔心が代表で怪しげな築山に忍び込み、そこで見たものは。転生衆による阿鼻叫喚。柔心が確認できたのは見知っていた胤瞬と名前が呼ばれた又衛門。それだけれでも容易ならざるところに、連れてこられた三人娘。

 原作ではこの後で三人娘と頼宣のやり取りが紹介されるのだけど、漫画ではほぼ並行して描かれます。「三人まとめて妾に」と言われて反射的に手を出してしまったのが一番勝気なお雛。三人をなぶる頼宣の犬歯が次第に尖って来て、彼の心情が既に魔界に転生したような昂揚感を感じていることを表現している(様に感じる)。

 地獄へ向かう三人が、原作では単に数人の侍に囲まれていただけなのに、漫画では数珠繋ぎにされていて悲壮感を増しています。三人が本気で抵抗したら数人で止めるのは難しいのである意味で当然の処置でしょう。

 いよいよ序盤の山場を迎えます。

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