柳生忍法帖・換装 巻の漆

その壱 これより会津(承前)

 憔悴しきった明成を接吻一つで甦らせたおゆら。「おゆらのいのちをお吸いなされませ」の一言が原作では接吻の後なのに、漫画では先に成っている。これは漫画としてのコマ割の関係でしょうか。

 手塩に掛けた七本槍の三人までもが倒されても銅伯には全く動揺が見られません。更には廉助の不在を気付かぬ一眼坊と銀四郎の迂闊振りを一喝し、大物振りを示します。がしかし、部下の消耗を全く意に介していない辺り、不死身の頭目というのはどうにも自己中過ぎますね。

 さてそこへ沢庵一行が割り込みます。登場の仕方が原作と多少異なるのですが、それはともかくとして駕籠の中に堀の女達を隠して正面から堂々と会津領へ入り込もうという大胆さ。敏感に女の匂いを感じ取った銅伯は一眼坊に駕籠の一つを暴けと命令。中から出てきたのは古河本陣で一向に救われたおとね。これって、彼女以外の駕籠が暴かれていたら大変な事になっていたはずですが。

 偽物疑惑を掛けられた沢庵は逆に明成こそ偽物ではないか、本物なら儂の顔を知っているはずと逆ねじを喰らわせてこれを論駁してしまう。ここまでは良いとして、残りの駕籠は将軍家のお手つきであると強弁する沢庵に対し、あくまでも開けろと主張する銅伯。そこへタイミング良く十兵衛による陽動が功を奏する。八人のくせ者が潜入したと言うのはあくまでも十兵衛が与えた偽情報なのですが、沢庵と般若面との関係がまだ確定していないからこその言い抜けでした。

その弐 銅伯夜がたり

 会津の城で明成を出迎えたのは江戸の花地獄に対する会津の雪地獄。原作では男女混合でしたが、漫画では絵的な効果を考えてか、すべて女性で統一されていました。花地獄の時も思いましたが、この時代にこれだけの巨乳が揃うんでしょうか。乳房って要するに脂肪の塊ですから、今より栄養状態の悪い江戸時代の女性はもっと胸が小さかったのでは…。

 銅伯と天海の関係その他に付いては原作通りなので注釈は付けません。しかし、十兵衛が斬ったあの三人はちゃんと原作に名前が載っていたんですね。

その参 断橋

 領内で女狩りに勤しむ一眼坊。吊り橋の上で読経する四名の雲水の一人が女性ではないかと見抜く。ああ見えてなかなかの頭脳派である彼は浚ってきた女を盾にして雲水達の行動を封じ、更に前から二番目にいた女を鞭で絡め取る。これは七本槍でも彼以外には出来ない芸当だろう。囮となっていたのはお沙和。

 橋を渡って向こう側へ向かう芦名衆を妨害するためお沙和は橋を切り落として抵抗する。しかし、一眼坊はその武器故にこれを逃れて向こう側へと渡る。これも彼以外には不可能だったろう。此処までは良かったのだが、向こう側で三人の僧を追っていて残りの堀女の伏兵に気付かなかったのが迂闊である。女達は一眼坊を完全に包囲する形で待ち構えており、彼の武器は接近戦向きではなかった。原作では女達が順番に襲いかかっているが、漫画ではやはり絵的な効果を考慮してか一斉攻撃に成っている。

 一眼坊に留めを刺したのはお千絵だが、この戦いの殊勲者がお沙和である事は間違いない。原作では、崖にぶつからずに渓流に落ちて助かったお沙和だが、漫画では長さが足りずに崖に激突している。但し、芦名衆の一人がクッションとなって彼女は一命を取り留める。そして一人だけ残った敵に足を掴まれて宙づりでの死闘を演じる事になる。それを救ったのが対岸にいた般若面。橋を渡らずに残っていた芦名衆を殲滅する。お沙和の足にぶら下がった芦名衆を小柄で倒したのは原作では芦名衆を殲滅した後であった。

その肆 首合戦

 おゆらの提案で作られた女達の彫像。原作では男と女の絡みだったはずだが、漫画版ではやはり女だけ。それよりもこれを眺めるおゆらのエロイ事。

 堀の女達が雲水に化けているのではとようやくにして気付いた銅伯は沢庵を封じるために夢山彦の使用を宣言する。そしてその為には沢庵を城までおびき寄せなければならないのだが。

 と言うところで次巻へ続く。

蛇足 堀主水の弟、多賀井又八郎の妻お沙和

 敵討ちに出るのがそぐわない、いたましいような、情愛にみちたふんわりとした美貌。これを橋の上で捕らえた一眼坊は「…美しい女は、吐く息までも甘酒のように人を酔わす」と風流な事を言う。

 一行の首領であるお千絵の叔母であり、しかも最年長。本来なら堀女の副将格を勤めるべき位置なのだが、荒事には向いていないらしい。会津へ向かう途上でも、喧嘩を始めた女達を本来なら彼女が宥めるべきだったのに、「わたしをのぞいては、十兵衛さまがみんなに御親切なようにおもわれてなりませぬ」ですから。

 彼女が何故この時に囮役を務めていたのか全く説明がありませんが、恐らくはもっとも敵の油断を誘いやすいと思われたのでしょう。江戸屋敷への潜入では役目をお千絵に代えられていましたが、此処では原作通り。と言うか此処が彼女の最大の見せ場でしたからね。

 さて次巻は話の展開から言ってもおとねが表紙になるのでしょう。とすると残る女性キャラは敵方のおゆらと、千姫様のみ。どうやら先が見えてきました。

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