柳生忍法帖・換装 巻の参
その壱 十兵衛先生
ロープを使って木の上から地面に飛び降りる訓練。一人目に成功した美少女(お千絵かさくらで有ろう)は描かれず、二人目のお笛と三人目のお沙和が描かれる。
再挑戦でお笛が成功した後、馬術訓練。恐らくは普通の乗り方なら修めているだろうが、二人一組で走りながら馬を互いに乗り換える「まんじ飛び」。丸いお鳥にはかなりきつそうで、お圭とのコンビで一度失敗、お沙和との再挑戦で成功させた。
此処までは原作通り。その後、七人総掛かりでの剣術指南。構成上、東海寺へ来た直後の光景は庄司甚右衛門編の冒頭へ廻している。この間に鉄斎との一戦が挟まって、その間の進歩が見て取れる。
続いて池に掛けた竹の橋を渡る訓練。七人の内、渡れたのはお千絵お鳥お笛の三人で、残りの4人は落ちた。但し、落ちた後竹筒を用いて潜水訓練を行っているのでそこまで織り込み済みなのだろう。
原作ではお千絵とお鳥が成功、お品お沙和が落ち、お笛が成功した後お圭とさくらが失敗となっているが、漫画版ではトップのお笛が渡りきったあと、二番目(消去法でお品)が落ち、次いで三番目のお沙和も落水。四番目は体型から見てお鳥、その次が単髪のさくらと判る。六番手がお千絵で最後尾は髪のボリュームから見てお圭であろう。
原作でも、この章にいたってようやく堀の七女の詳細な描写が行われている。漫画では既に絵で分るので、台詞の振り分けでキャラクターを表現することになる。
先生に「つらいか」と聞かれ「いいえ、ちっとも」と答えるのはお千絵だったが、漫画では前半がお笛、後半だけお千絵(但し台詞は「すこしも」に変更)で、その後の「…、何でもありませぬ」がさくらになっている。最年少であるさくらが最も気が強いと言う設定なのだろう。
その次の長台詞は前作では元はさくらの担当であったが、二つに分けられて前半の「くやしゅうてなりませぬ…」がお圭、後半の「総掛かりになれば…」がお鳥に振られている。
「うぬぼれるな」と諭されて怒気を荒げたのは、原作ではお圭とお品の未亡人コンビだったが、これも若いさくらに代わり、「逃げるため」と言われて困惑しているのがお沙和。「逃げるために尼寺を下りたのでは」と気勢を上げるのもさくらで、「逃げませぬ」は全員。
その後の「どのような心得なら…」は代表であるお千絵がそのまま発するが、原作にある叫ぶと言う感じではない。対する先生の答えが問題の「柔らかくなる」である。
「柔らかく…とは?」と質問するのは原作では特定されていないが、漫画ではお圭。で「七人の侍」にも採用された有名な伊勢守の逸話が語られるのだが、ここから「色仕掛け」を連想するのはやはり無理。ナレーションを使わない方針のため、十兵衛自身が無理を自覚している。原作の、現代の女子大学生云々、は果たして今でも有効でしょうか。
その弐 まんじ飛び
千姫の招きでお茶を頂いた帰り、竹橋御殿を張っていた丈之進の犬との籠チェイス。此処で先の修行の成果が発揮される。決して俊敏そうではないお鳥だが、咄嗟のまんじ飛びを一発で決めた。
追いすがる風丸を仕留めたモノの残る二匹とその飼い主が間に合ったため逃走を諦める。原作では籠が止まったのは成行きだが、漫画ではお鳥が制止を掛けている。十兵衛は犬だけでも仕留めようとするが、勘の鋭い犬は乗ってこない。そして槍の孫兵衛の登場。
孫兵衛は般若面が守る籠に堀の女が居ると思って槍を繰り出すのだが、実はこの中にあるのは先に仕留められた風丸の死体。十兵衛はその槍を押さえ、お鳥を呼び出す。そして孫兵衛の長槍を竹の橋に見立てて堀を渡る。
原作ではこの槍を切り落とす孫兵衛の一瞬の迷いが勝敗を分けるのだが、漫画ではその逡巡が見られない。絵でそれを表現するのは無理との判断であろう。
「おまえは、おまえの命を斬った」と言う台詞は原作では孫兵衛を襲うお鳥のモノに読めるが、漫画では十兵衛の心の声に成っている。
丈之進もこの場で討ち果たそうとするお鳥を十兵衛は止める。原作では時間を喰いすぎて他の七本槍が現れると面倒だから、となっているが、漫画ではそこまでの説明はない。先に説いた一撃離脱戦術をたたき込む意図もあったのだろう。
その参 般若組
五人になった七本槍の反撃。こちらも、動向を互いの会話によって説明。般若組の構想を思いついたのは一眼坊に成っている。これは明成に談合の結果を伝える役を負ったのが一眼坊であった点からの想定であろう。
千姫の悪評を根も葉もない噂と言わせながら、それを利用しようと言う辺りがあくどいのだが、堀方もこれを利用して加藤屋敷への潜入を謀ることになる。が、これは次巻に譲る。
蛇足 板倉不伝の娘お鳥
父は「主水の縁につながる」と紹介されている。叔父やいとこの中に不伝の名がある。お鳥の年齢からいとこと思われる。よってお千絵やさくらとは又いとことなる。よって序列はちょうど真ん中の四番目。彼女がこの巻の表紙に登場したのは中を読めば一目瞭然ですね。
まるまるとふとって、お笛と並ぶムードメーカーである。太めの美女を見事に絵にした作者の力量は称賛モノである。特徴が有るので描きやすいキャラではあります。