柳生忍法帖・換装 巻の弐

その壱 蛇の目は七つ(承前)

 槍使い孫兵衛の棒高跳びを交わした後、竹薮に逃げ込んで鉄斎の鎖鎌の攻撃を受ける。原作では鎌の方を飛ばしてなぎ払う攻撃なのだが、漫画では分銅と鎌を両方一編に飛ばし、分銅で竹を纏めて籠の如く閉じこめている。絵だけ見えると絶対に逃げられない。鉄斎が「抜刀はおろか」と言っているのにあっさり逆手抜きで前方の竹をなぎ払って逃げ場を確保している。

 これは、原作の方が判りにくい気がする。

その弐 籠

 庄司甚右衛門編の壱。

 東海寺での修行風景が一部前倒しで描かれる。東慶寺でのお返しで、今度は女達が鈴を付けされられているのだが、女達にはバレバレなのが微笑ましい。

 西田屋での女選び。三十八人(漫画の方では総数は明示無し)から十一人へ絞るのに二段階有るのだが、その辺は生々しいので省略。この後竹を使って最後の選定に挑むのだが、絵的に判りやすくしてある。

 この時お針として西田屋に潜入したのは原作では主水の娘で七人のリーダー格であるお千絵だったのが、最年少のさくらに変更されている。この変装衣装を縫ったのが裁縫上手のお沙和といった具合に、七人のキャラ立てに苦心が見られる。

その参 髯を生やした京人形

 庄司甚右衛門編の弐。

 潜入したさくらの残した警告文によりその日の内に京人形を持ち帰れなくなった為、後日鉄斎一人が運搬用の箱を用意して再訪する。これを待ち構える鬼女面軍団は、竹籠で分銅を封じ鎌の方は橋のたもとの金精大神霊(陽恨の石像)に食い込んでしまう。鎌を封じられた鉄斎は七人の一斉攻撃で敢えない最期を遂げるのだが。

 これは明らかに鉄斎が一人で来ることを計算した上での作戦である。堀主水の元を訪れて女衒呼ばわりされたのがこの老人であったことからみて、彼がこの手の交渉事を担当していたのだろう。彼以外にこの手の交渉事に向きそうな人間も居なさそうだが。

 さて問題はこの後。十兵衛先生は甚右衛門を脅すのに向坂甚内の二代目を名乗るのだが、「むこうさか」とルビがふられている。正しくは「こうさか」の筈。せがわ氏か、編集かどちらかが間違えたのだろう。氏がどの版を参照しているのかは不明だが、講談社文庫版には振り仮名がついていない。

蛇足 お千絵の婢お笛

 七人の中で最下位。生き残った内で只一人髪を青く剃り上げていた。他の6人が愛するモノの復讐で動いているのに対して、彼女だけは主であるお千絵の為に動いている。身分から言っても、本来なら他の6人と同等に扱われるべきではないが、本人はその立場の違いを意識してはいないだろう。

 初対面で、十兵衛の顔を張ったり、「十兵衛さまは、日本一のいい男でございます」と言ってみたり、原作中でもキャラが立っている。終盤でお千絵と共に会津を脱出して千姫の元へ駆け込むため、表舞台から退場することになるのは勿体ない。漫画がこの辺りに達するのはまだずっと先になるが。

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