結局、徳川幕府は何故倒れたか

 

前置き

 昔、もう一年ほど前になりますか、このテーマである掲示版で討論しました。まあ、色々あって、具体的な結論は出なかったんですが、大河ドラマで「新選組!」をやっている事もありますし、現在の私の考えをまとめておこうと思います。

§1 制度疲労

 この一言で全て言い尽くせてしまう感も有りますが、具体的には「征夷大将軍がその職務を全う出来なくなった」から、と言うのが私の掲げた理由でした。

 徳川幕府というのは今も世界中のそこかしこにある軍事政権です。そしてそれに正統性を与えたのが朝廷より押し戴いた征夷大将軍という官位でした。この官職は本来、夷狄を打ち払うためと言う前提で、軍政を認めるモノでした。しかし、黒船来航にいたり、幕府はその本来の任務を全う出来ませんでした。徳川家の力だけでは押し寄せる夷狄=外国勢力を押し返せなくなっていたのです。

 この時点で幕府はその役目を終えました。しかし終ったのは幕府だけではありません。真に終るべきなのは武士の世の中でした。武士というものの本質は不正規兵なのですが、これでは諸外国との戦闘には勝てない。黒船の襲来という危機に際して求められたのは国民皆兵による正規兵でした。それに気付いたごく限られた人間がいて、その主導によって明治政府は誕生しました。そもそも、武士団と言う不正規軍が誕生したのは中央政府が軍事警察機構を疎かにした(はっきり言えば捨て去った)為です。王政復古というのは天皇が政治の主体になると言う意味もありますが、軍事を中央政府直轄に戻すという意図が含まれています。

§2 経済的要因

 「江戸時代の階級社会が、発展する経済に耐えられなくなった」と言う視点を提示された方が居ました。あの時の討論の中では上手く消化出来なかったのですが、これも前項に採り上げた正規兵不正規兵の問題に絡めて説明出来そうです。

 武士の世では軍事に携わるのは限られた人間で、初めはそうでもなかったのですが、鎌倉・室町・江戸と進むに連れて次第に特権階級へと変貌していきます。古代・中世では武術というのは一種の専門技能を要するために、専業の世襲兵士階層には利点があります。世界的に見ても軍事を司る階層が支配階級として台頭しています。そうした階級社会を撃ち破るにはより簡単に扱える銃器の登場が不可欠でした。戦国末の火縄銃は残念ながらまだその段階まで達していません。

 本来戦いを本分とする武士が全ての政治を担うとどういう事になるか、世界にまだ尚存在する軍事政権を見ればよく解ります。一言で言えば潔癖性です。悪く言えば経済音痴と言えるでしょう。軍事も経済活動の一環であると言うことが理解出来ない(あるいはしたくない)のです。よって商業が主要経済でない間はともかく、商業が盛んになると軍政は正常に機能しなくなる訳ですね。

 明治維新というのは、経済と軍事の分離とも言えそうです。

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