大名・旗本事件秘録
佐七が関与した大名旗本家中の(一般には)知られざる事件の数々。
文化十四年
「猫姫様」
昨年秋 松太郎の姉お藤、猫好きの姫様に気に入られて猫ごと奉公に入る。
夏 森丹波守の娘菊姫様付き中老藤波、猫を全て始末して自害。菊姫、この諫言を受け入れて御輿入れに応じる。
「稚児人形」
九月 内藤伊賀守の部屋様お艶の方と江戸家老斑鳩玄蕃、ふたりの間に生まれた菊千代にお家を継がせようと図るが露見して自害。
文化十五年/文政元年
「恩愛の凧」
正月 麻布三河台田宮家の御後室、嫡男縫之助の出生に関してその実母であるお仙にゆすられる。縫之助の実父吉五郎、お仙を殺して自害。
「比丘尼宿」
四,五年前 蔦屋重兵衛「竹森騒動覚え書き」で高森家の家老奥平将監を擁護。
梅雨時 将監の遺児たち、佐七の力を借りて重兵衛を危機から救う。
「蛇を使う女」
八月の初め 旗本結城家の若殿千之丞、贈物に潜んでいたまむしに噛まれる。
元中間の詐称が原因と判明する。
文政二年
「女刺青師」
入れ墨隠居・松平相模守、昨年の春死去。
彼の元女中でまぼろしお長の入れ墨を持つ女達が狙われる。
「小倉百人一首」
八年前 稲川半左衛門(大身三千五百石)の娘浪江、番町の土岐頼母(千五百石)に嫁ぐ。
「たぬき汁」
九月 旗本榊原伊織のお部屋様お銀、夫の親類江原大二郎に恋慕し、夫の毒殺を図る。しかしその意図を見抜いた大二郎によって自ら毒を飲む。
文政三年
「五つめの鍾馗」
四月 九段下の旗本江田甲斐守家中池内隼人、家督相続にまつわる陰謀を巡らせて成敗される。
「狼侍」
九月 金座役人藤間丹波、偽装自殺を図る。不正に関わった同輩磯貝房次郎は牢死。事件は闇に葬られる。
* 原型が戦前の由利先生ものだったこと、更にこの事件の黒幕が神崎の失脚に関わっていたのではと推定し前期に置く。
文政四年
「白羽の矢」
某大名の若殿、昨夏の舟遊びで見初めた娘に拝領の扇を渡す。
春半ば 町屋に白羽の矢を立てて扇を取り返そうと図る。
文政五年
「武者人形の首」
五月 北陸筋・西条八万石を巡るお家騒動。
武者人形に隠された斬奸状。
柳営の某侯の失脚により西条家の騒動が治まる。
「狸御殿」
勝田源之助、四年前に妻栞を離縁するも疑惑を抱きいまだ一人身。たぬき御殿の噂を聞いて神崎を介して佐七に調査を依頼する。
たぬきの正体が栞の父矢部甲斐守の隠し子であると知れる。
栞の弟で矢部家の現当主菊之丞、異母妹奈津女の身柄を引き受ける。栞は源之助と復縁し、菊之丞の縁談もまとまる。
「半分鶴之助」
16年前に死亡したと思われていた大身旗本佐川伊織之助の庶子が発見され別家を許される。
「仮面の若様」
土岐頼母死去。嫡男藤之助、昨春以来行方知れず。生母より伝わったと思しき病(おそらく癩病)を発症し穴倉に匿われる。次男千弥に家督相続がなされた。
文政六年
「身代わり千之丞」
旗本勝田家の若殿、むささび半次と名乗って無頼の徒に身を投じ島送りとなる。これと瓜二つだった中村千之丞、身代わりとなる。若殿勝田家を相続し主水と名乗る。
むささび半次(千之丞)、島送りの途中で船が遭難し脱走。
勝田主水、おちまき献上の大任を前に発狂。千之丞、再び身代わりを務める。主水は隠居し一子鶴之助に家督が譲られる。
文政八年
「怪談五色猫」
夏 旗本立花丹後家のお家騒動。乗っ取りを企む弟隼人、旧悪が露見して丹後の義弟安西新八郎に討たれる。
「八つ目鰻」
七月 旗本鈴木主計之介に奉公していたお文、寵愛を受けていた大殿の死によりいとまを戴く。伯父佐兵衛の死と前後して行方知れず。
八月下旬 佐七の再調査によりお文が発見される。容疑が晴れた青山福三郎、お文を妻に迎える。
文政九年
「凧の行方」
春 勘定方初鹿野主膳の若殿亀之助の失踪と書類紛失で騒動となる。
浪人草間源三郎、重要書類をタネに初鹿野家を強請る。
「遠眼鏡の殿様」
元勘定方赤松竹斎の妻加奈江の不貞の果てに自害、表向きは病死とされる。その相手であった若党の内海与三郎も成敗される。
「百物語」
夏の終わり 隠居の旗本・篠崎鵬斎頓死。実は長子又五郎の復讐を遂げての自害。
「敵討ち走馬灯」
九月八日 勘定方・賀川大橘の打ち明け話をきっかけに、甥の主水が斬られる。
佐七、真相を掴みつつもそれを公にせず。
「清姫の帯」
霜月半ば 青山主膳、祝言の夜に襲われる。新妻お糸は清姫の帯で首をくくられて見つかる。
文政十年
「梅若水揚帳」
十年まえ 肥前岩槻の領主堀田駿河守政員、押込め隠居に追い込まれ二年後に憤死。家督は叔父の近江守政成が跡を継ぐ。
政成の娘苅藻、疱瘡を患って婚期を逸する。(先代政員のたたりとの噂)
堀田家、抜け荷の罪状で取り潰し。失踪した苅藻姫、変死体で見つかる。
「二枚短冊」
石見五万石竜造寺大和守急死。暴君だった主君を家臣が謀殺。
六月 連判状を巡っての騒動を佐七が解決する。
「笛を吹く浪人」
初秋(七月) 本庄真弓之介の長女奈津女、白癩を発症して変死。実は奈津女は真弓之介の胤ではなかった。
* 実父よりの遺伝、実際には癩病は遺伝しないので…。
「坊主斬り貞宗」
三月下旬 旗本永瀬隼人、甲州勤番よりの帰途で謎の坊主に付きまとわれる。
四月 永瀬邸に坊主のあやかしが出現。
隼人の妻お縫、坊主斬り貞宗の由来を知る。
七月半ば お縫、夫に内緒で佐七に相談。
お縫、不貞がばれて実家へ帰される。
隼人の子を孕んでいたお綾、入れ替わりに永瀬家に迎えられ、秋に男子を産む。
文政十一年
「お時計献上」
二月 備中岡田・阿部対馬守への献上時計を巡ってからくり甚内が殺害される。
* 備中岡田というのは横溝正史の疎開地だが、ここを領したのは伊東家で10343石。この細かい石高で思い出したが「悪魔の手毬唄」に登場するあの伊東家である。
「鼓狂言」
三月 県井真澄の娘、大奥で父の汚名を晴らす。
文政十二年
「万歳かぞえ唄」
一月 伏見奉行川路大和守直久、その悪行が露見してお役御免、程なく乱心して自害。
「殿様乞食」
春 西国の大名に仕える磯部六之助とその妹お里、父の仇を探して江戸に出る。乞食を装って探索するが、下郎の背信により返り討ち。お里、助太刀を得て敵討ちを果たす。
「猫屋敷」
七月 緒方伊織、乱心して妻萩江を斬って失踪。緒方家は急遽養子を取って跡目を取らせる。
萩江と隣家の北村右京の弟竹之丞の密通が発覚。萩江の兄仙石十太夫、二人を成敗して病死として処理する。
文政十三年
「妖犬伝」
西国の某藩での妻敵討ち。津島源太夫は返り討ち。仇は別の人間に殺されて、義弟青柳静馬は帰参を諦めて江戸に落ち着く。