テーマ27 天皇家の忍者

 

 今回の題材は南原幹雄氏の小説でタイトルそのままです。

 古本屋にて手に取った第一印象は「どっかで見た話だな」でした。天皇家の忍者と言うネタでは既に半村良氏の「産霊山秘録」が有りますし、八瀬童子なら隆慶一郎氏が取り上げています。当然に両者の作品との比較も後で行いますが。

 南原氏は、既に知られた八瀬童子を噛ませ犬にして、これと対抗する静原冠者と言う一族を登場させました。これが氏の創作なのか、実際に存在する集団なのか、考えるのは野暮と言うもの。(地名としては間違いなく存在するようです)

 タイトルとして仰々しく取り上げられている「天皇家の忍者」ですが、実際には天皇家を守ることにあまり役に立っていないと言う点が悪く言えば拍子抜け、いい意味で予測を裏切った。実際に天皇家を徳川幕府から守ったのは徳川から天皇家に輿入れした東福門院でしたと言う結末は、逆に天皇家の強かさを感じさせる良いオチだったのではないかとも思います。幕府の圧倒的な武力に対して、忍者の武力で対抗するのでは興ざめに成るところ。

忍者陰謀史観

 「産霊山秘録」における「ヒ一族」は”嘘の天才”である半村氏が考え出した全く架空の存在で、「天皇家が何故生き残ったか」の回答として忍者を登場させた一種の”陰謀史観”を形成しています。

 単なる時代小説で終わらず、戦後の焼け野原から始まる現代篇にいたる超大河小説であるがゆえに、単なる天皇万歳小説にならないところがさすがに戦中派と言う印象です。次に取り上げる隆慶一郎氏もやはり戦中派で、やはり天皇の扱いに付いては複雑なものがあるのでしょう。

 そして八瀬童子を後水尾天皇の隠密として取り上げた先行作品が隆慶一郎氏の「花と火の帝」です。残念ながらこれは未完。南原氏の作品はこれに対するオマージュ的な要素があるのでしょう。

天羅万象

 さて「天皇家の忍者」と言うテーマを間接的に扱っているRPGとして天羅万象を紹介せずにはいられません。

 架空の日本風戦国世界を舞台とするこのTRPGには神宮家と言う天皇家を思わせる絶対不可侵の存在が登場します。彼らは明鏡と言う特殊なテクノロジーを秘匿して、これをネタにある種の黒幕として振舞うのですが、シリーズの展開により南北に分裂して、その独占体制が崩れます。

まとまらないまとめ

 天皇家と言うのは和風ファンタジーを創作するに際して欠かせないとまでは言わないものの、重要な要素の一つであることは確かですが、扱いが難しいことも確か。

 さわらぬ神に祟りなし。

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