テーマ16 無法者の一生

前置き

 今回のテーマは裏社会と無法者。通常は素材となる小説が先にあって後からテーマを導き出していたのですが、今回は逆。

 無法者=アウトローというのは西洋風ファンタジーRPGに照らせば、盗賊に当たるのですが、これを時代劇でそのままプレイヤーキャラクターとして使うのはやや難があります。江戸初期では傾奇者、旗本奴と町奴。これがやがて武家火消しと町火消しへと代わり、幕末の動乱期には博徒の群れが関東を中心に席巻します。

 無法者というのは平和な時代にしか存在出来ない。戦国動乱の時代には法秩序が存在しないので、無法と合法の境界が曖昧になる訳です。この辺の機微は以前に取り上げた「捕物帳」に近い。要するに力ずくが効かないから、様々な知能犯が幅を利かせる訳です。

実例

 ようやく素材の話ですが、えとう乱星「かぶき奉行」を取り上げます。実は以前から取り上げたい作家だったのですが、なかなかきっかけが無くて。

 簡単に筋を紹介すると、元々旗本奴一人だった主人公にある筋から養子縁組が持ち上がります。これが殺生奉行を勤める家柄で、要するに将軍家の鷹狩りの一切を取り仕切る役目で、殺生お構いなしと言う特権を有していました。そんな職務を継いだ主人公はやがて天下を揺るがす大陰謀と対峙する事になります。時代背景を見れば陰謀の正体は直ぐに分かるでしょう。

 傾奇者というのは戦国の世に醸成された下克上の風潮を体現する者達なのですが、これが太平の世と折り合わない。体制側に有って不満を抱く連中の代表格が旗本奴、体制から弾かれた関ヶ原浪人・大坂浪人が勃興する町人勢力と交わって生まれたのが町奴。これが江戸幕府の揺籃期に激しく対立します。その典型例が有名な水野十郎左衛門と幡随院長兵衛。一方で、武家内部の大名と旗本の抗争というのもあってその衝突の一つが荒木又右衛門の鍵屋の辻の決闘と言った具合。かの島原の乱にしても豊臣残党の反乱という説もあって、幕府創設から五十年ぐらいは、当事者から見れば難しい傍観者から見れば面白い時代だと言えます。

火消しと博徒

 火消しというと、テレビ時代劇ですが暴れん坊将軍に登場しため組の辰五郎が思い起こされます。火消しというのは家光時代から整備されましたが、これは主に武家火消し。これは冷や飯食いの次三男を吸収するいわばグレン隊対策でもありました。これが旗本奴の落ち着き先になります。

 町火消しを立ち上げたのは吉宗時代。名奉行で知られた大岡越前の業績の一つとなります。江戸の治安組織は極めて小さく、警察機構にしても消防にしてもこうした民間の自助努力というのは欠かせません。日本人のお上依存体質が極まったのは明治維新政府による中央集権化政策の結果でしょう。

 理想的な小さな政府であった江戸幕府が壊れた一因は市場経済の発達。その結果というわけでは有りませんが吹き出したのが博徒の群れ。関東にこうした博徒が横行したのは天領・大名領・旗本領が入り乱れていた故と説明されますが、それとは別に商業の発達により農村から離れた無宿の増加が一因だったのでしょう。

 そして生まれたのが「天保水滸伝」の世界。で、これを下敷きにしたのが山田風太郎「武蔵野水滸伝」。この頃が博徒の黄金期で、幕府権力が完全に崩壊すると、それに寄生する博徒も生存出来ません。博徒が革命勢力に使い捨てにされる過程が描かれたのが「旅人国定龍次」となります。左翼(つまり反体制の)博徒というのは墓穴を掘っているとしか思えません。薩長に協力した黒駒の勝蔵は粛正されましたが、佐幕寄りだった清水の次郎長は結果として生き残っています。現代でも、ヤクザと右翼は相性が良いですよね。

応用例

 こうして考えてみると博徒RPGというのは面白そうなんですけど、商業ベースには乗せにくいですね。

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