テーマ11 吸血鬼が来た

 今回の素材は「天動説」(山田正紀 角川ノベルズ)です。

 内容はタイトルの通り。天保時代の江戸を舞台にした吸血鬼モノです。

吸血鬼モノとして

 良くも悪くも「ドラキュラ」のバリアントになっています。田舎から都会へ出てきたけど、上手く行かなくて本拠へ舞い戻った末に執拗な追っ手に滅ぼされる訳です。

 吸血鬼伝説というのはいわゆる「早すぎた埋葬」を背景とするので、火葬を行う地域にはそもそも発生しない。ヴァンパイアという名称そのものが東欧に起原を持つので、ロシアを経由して北回りで日本へ入ってくるのは何となく理解できる。

 最終章で「それでもヴァンパイアは生きている」と登場人物に言わしめる。これが題名に繋がる訳ですが、誰も信じなくても吸血鬼は存在すると言う意図なら、逆なのでは?

 とはいえ、この最終章がないとこの作品は成立しない。この章に吸血鬼として登場するのがあの怪僧ラスプーチン、と言うのは落ちとしては上手いと思う。後のラスプーチン=グリーシャ少年が吸血鬼になった経緯が意味深である。死にかけた彼の命を救ったのが牙のある女性、即ち吸血鬼だったと言う。

時代小説として

 初めて吸血鬼が日本に現れたのが島原の乱と成っている。乱の参加者が皆殺しにされたのは、吸血鬼かを恐れた結果であろうか。

 この乱の時に功を挙げた甲賀組が江戸城の大奥警護を任される際に西の丸専任となり、本丸を受け持つ伊賀組との対立構造にある、と言う設定はこれだけで別に話を作れそうな設定なのだが。

 さたんは西の丸に巣くう甲賀組と通じており、その背後には大御所家斉がいる。その大御所を死に至らしめたのがさたんの力で蘇った女(吸血鬼化して淫蕩になった)であったと言うのは話としてやや錯綜している様に思える。何せ大御所の死によって後ろ盾を失った結果、さたんは元居た蝦夷地へ戻らざるを得なくなったのだから。

類似作品

 島原の乱と吸血鬼と聞いて思い出すのが「髑髏検校」(横溝正史 角川文庫他)です。これはそのまま「ドラキュラ」の翻案ですが、ドラキュラに相当するのが天草四郎というのが面白い。天草四郎をキーワードに様々な伝奇小説を探ってみるのも面白いかも知れません。

 少し時代を遡って信長を吸血鬼にした作品もいくつか有りますが、一応完結したモノとして「流血鬼信長」を挙げておきます。

モダン・ヴァンパイア

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