世界観比較私論 ファンタジー編
§5 魔法の国・アトランティス ラリー・ニーヴン
ニーヴンの作品としては長編一編と短編三編(しかなく、ニーヴン以外の作家による競作が書かれている。執筆順としては、「週末は遠くない」「ガラスの短剣」「魔法の国が消えていく」(長編)「ライアンの料亭」となる。
ニーヴン自身は根っからSF畑の人で、「ガラスの短剣」は剣と魔法を主題とした私の唯一の中編である…。と言っている。実際にはその後、考え直して?続編「魔法の国が消えていく」を書いた訳である。ニーヴンによる世界設定が秀逸であったため、他作家による競作が行われ、それに刺激されたニーヴン本人がアンソロジーの続編に新作「ライアンの料亭」を寄せた。
コナンの活躍するヒューペルボリアと同様に過去の魔法を使えた時代を扱う。但し、キャラクターの特徴からほとんど魔法の香りがしないヒューペルボリア時代と異なり、こちらはテーマからも魔法使いが優位である。現代に魔法使いが残っていない理由が極めて論理的(SF的)に語られる。
剣士と魔法使いの対決を評して、「たいていの場合、剣士が負けて、人類の平均知能はほんのちょっぴり上昇した。剣士が勝つこともあり、その場合も種は改良された。お粗末な剣士風情の一人くらいを殺せないような魔法使いは魔法使いの風上にも置けないからだ。」とある。
さて英米のSF作家の創作意欲を掻き立てたニーヴンの魔法世界の原則とは、以下の物である。
1 魔法の根元であるマナは天然資源であって、次第に枯渇する。
2 魔法の行使に用いられる呪文には身振りに拠る物と口で唱える物とがある。これらの併用も可能。
3 マナの枯渇は紀元前一万二千年頃に顕在化し、その枯渇により魔法で支えられていたアトランティス大陸が沈んだ。
4 神々の力もマナによって支えられている。
5 神々を含むマナに依存する生物はその枯渇により死滅した。
6 隕石やある種の宝石には大量のマナが含まれる。また大量殺人が行われた古戦場などにも強いマナが存在する。
7 史上最強にして最後の大魔法使いの名であったウォーロックはその後魔法使いを表す普通名詞に転化した。