占星術の周辺

§0 占星術的自然観

 この稿では占星術と様々な科学分野についての関連制を検討する。

 占星術が天上と地上の相関を見出そうとするひとつの試みであり、その宿命論はやがてニュートンによって力学法則へと置き換わる。また占星術が含んでいた遠隔操作の思想はやはり万有引力の発見へと結びつく事になる。これまで別々に記述されていた天上と地上の運動はニュートン力学によって統合される事になった。

 占星術は錬金術の様に何かを作り出そうという前向きな活動は生み出さない。宿命によって縛られた占星術師は必然的に受動的・保守的な態度になる。観測・経験に由来しながら純粋な意味での観測科学でない占星術はドクマ的思弁に取り憑かれて机上の空論と化す。実験によって新生面を切り開くことが廷内ので勢い古い権威に頼りがちになる。

§1 占星術と気象学

 占星術の文化のひとつとして自然占星術が有る。これは天上の異変と地上の政治的状況を結びつけていた天変占星術から進化して、地上の気象への天体の影響を論じたモノである。この自然占星術は気象学と密接な関係を持ち、有る程度の長期予報を可能にする。

 宿命占星術に対して批判的な学者ですら、この自然占星術はむげには否定出来ない。特に太陽が地上に与える影響は誰の目からも明白である。恒星の距離を実際より遙かに近いと考えていた古代・中世の人には天体の地上への影響が実際以上に感じられても不思議はないだろう。

 しかし天上と地上の事象に相関関係を求めるのはよいが、それらに因果関係を求めて思索的なドクマ化すると問題が生じる。

 太陽の動きは間違いなく地上の季節と対応する。また星座は季節と対応するのでナイルの氾濫の様な周期的な事象については予知可能になる。しかしこれでは突発的な異常気象は説明出来ない。そこでこれの原因を月に求める事になる。月が潮の干満に影響することは知られているが、これを更に惑星にまで拡大すると現実との乖離が激しくなる。

 かつては月下界・天上界という区分があった様に、天文学と気象学との境界は月軌道にあった。現在では、その境界は電離層に置かれており、互いに協力し有って隙間を作らない様に務めている。天文学と気象学を結びつける試みが「科学的占星気象学」すなわち天体気象学と呼ばれる。魔法世界では”魔法的天体気象学”を想定し、星霊気象学(略して星気学)と呼ぶことにする。

§2 占星術と医学・錬金術

 自然占星術の人体への応用として占星医学と呼ばれるモノが存在した。月の満ち欠けと女性の月経周期との相関から因果関係を想起されるし、太陽の動きから生じる季節が健康に与える影響は無視出来ない。占星術は医学や錬金術と相互に補完する関係にあった。

 宿命占星術では精々死期とその原因を予言するだけであり、またその宿命論的な性格から医学とは敵対関係にある。運命論者の医者にしてみると「死ぬ奴はどうやっても死ぬ」と言うことになり、とても商売にならない。一方、自然占星術では天体の地上への影響を検証し治療や闘病への指針を与える。発病時の天空の状態が診断や治療に際して考慮されることも多かった。

 占星医学の主要な原理のひとつに大宇宙(天)と小宇宙(人体)の対応という考え方がある。これが原理として確立すると、医者が患者を離れて天の「診断」を重視するという現実乖離が生まれる。観念的な占星医学は医学の実証的な探求の道を混乱させ、その発展を阻む要因となった。中世に置いては占星医学が優勢であったヨーロッパよりイスラム圏の方が進んだ医学が存在した。

 東洋でも占星医学に基づく運気説が発生した。中国では西洋占星術の十二宮の代わりに東洋の二十八宿が人体と対応され、また錬金術起源の四体液説の代わりに陰陽五行説に起因する五運六気が各々五臓六腑に影響を与えるとされた。

§3 占星術と魔術

 占星術に内在される運命観は人の自由意志に基づく魔術原理とは対立する。にもかかわらず占星術は(前稿で述べた様に)魔術的な理論で支配されている。

 魔術の深化と共に占星術もその構造を複雑化させていく。それが限界を超えたとき、魔術的な要素を廃した宿数道へと昇華する。これが錬金術より発展した錬成学と違って”学”と呼ばれない点にも注意して欲しい。錬成学が形而下学なのに対し、宿数道は形而上学なのである。

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